職能別組織とは、会社の中で「どんな仕事をしているか」という機能ごとに部門を分けて構成された組織形態のことです。ここでいう「機能」とは、営業、開発、マーケティング、人事、経理など、役割がはっきりしている業務のまとまりを指します。たとえば、営業の専門家は営業部門に、人材採用や評価を専門とする人は人事部門に、といったように、似た仕事をする人たちが同じ部署に集まるイメージです。
職能別組織の基本概念と特徴
このような構造をとることで、各部門が担当する仕事の範囲が明確になり、専門性を高めやすくなるという特徴があります。特に、まだ扱う事業やサービスの数がそれほど多くない企業や、特定の領域で専門性を磨きたい企業にとって、職能別組織は分かりやすく管理しやすい形のひとつといえます。
職能別組織が重視する「専門性」と「標準化」
職能別組織の大きな特徴のひとつが、「専門性」と「標準化」を重視している点です。専門性とは、ある特定の分野の知識やスキルを深めることを意味します。営業であれば顧客とのコミュニケーションや提案力、人事であれば採用や評価制度の設計、経理であれば会計や財務の知識など、それぞれの職能に必要な能力を集中的に高めることができます。同じ職能のメンバーが同じ部署に集まっているため、ノウハウや失敗例を共有しやすく、教育や育成もしやすい構造になっています。
一方、「標準化」とは、仕事の進め方やルールを統一することを指します。たとえば営業であれば、見積もりの作り方や商談の記録方法、人事であれば評価シートの形式や面接の進め方などを、部門全体で共通のやり方として定めやすくなります。職能別に組織が分かれていることで、「この仕事はこう進める」というお手本を部門内で共有しやすく、新しく入ったメンバーも同じ基準で仕事を覚えていきやすくなります。これにより、業務の品質を安定させやすいという利点が生まれます。
指揮命令系統がシンプルになりやすい構造
職能別組織では、一般的に「営業のことは営業部長」「開発のことは開発部長」のように、職能ごとに責任者が配置されます。これにより、部門内での指揮命令系統が分かりやすくなり、「このテーマについて誰が決めるのか」が明瞭になります。組織図にしたときにも、機能ごとに縦にラインが伸びるイメージになり、管理しやすい構造をとりやすい点が特徴です。
また、メンバーにとっても「自分の上司は誰で、どの範囲のことを相談すればよいのか」が明確になりやすく、評価や指導の責任の所在も分かりやすくなります。上司は同じ職能の経験を持っていることが多いため、仕事の内容を理解したうえでアドバイスやサポートをしやすいという側面もあります。これは、専門職が多いエンジニア組織やクリエイティブ組織にとっても重要なポイントで、専門性を理解してくれる上司のもとで働きたいというニーズに応えやすい構造といえます。
職能別組織の代表的な構成と役割分担
職能別組織は、企業内の業務を「機能ごと」にまとめて部門化する仕組みであり、それぞれの部門が特定の専門分野を担当します。代表的な構成としては、営業部門、開発部門、マーケティング部門、人事部門、経理部門などが挙げられます。これらはいずれも企業活動を支える重要な機能であり、それぞれが専門性を持つメンバーで構成されます。職能別組織では、同じ種類の業務に携わる人材がひとつの部門に集まるため、組織全体の役割分担が明確になりやすいという特徴があります。これは、企業規模に関係なく、多くの組織で採用されている理由のひとつです。特に成長途上の企業では、機能ごとに人材を整理し、効率的に業務を進めるための基本的な組織構造として用いられます。
代表的な職能別部門とその役割
職能別組織における代表的な部門と、その役割を整理すると次のようになります。
- 営業部門
顧客との関係構築や提案活動を担当します。市場ニーズを直接把握し、売上を生み出す役割を担います。 - 開発部門
商品やサービスの開発、品質向上を担当する部門です。技術的な専門知識を活かし、企業の価値を高める活動を行います。 - マーケティング部門
市場調査やブランド構築、プロモーションなどを担当します。顧客にどのように価値を届けるかを考える機能を持ちます。 - 人事部門
採用、評価、配置、育成などを担当します。組織に必要な人材を確保し、社員が働きやすい環境を整える役割があります。 - 経理部門
企業のお金の流れを管理し、財務状況を正確に把握します。予算管理や決算など、企業経営に欠かせない業務を担当します。
これらの部門は、それぞれ異なる目的や専門知識を持ちながらも、相互に連携することで企業活動全体を成り立たせています。
部門間連携の重要性と役割の明確化
職能別組織では、各部門が専門性を発揮するため、業務の質を安定させやすい一方で、部門間の連携が重要なポイントとなります。専門分野ごとに業務が深く分かれているため、他部門の状況や課題が見えにくくなることがあります。そのため、「誰がどの業務を担当し、どの情報を共有すべきか」を明確にするルールづくりが求められます。例えば、営業部門が把握した顧客ニーズを開発部門に共有することで新しい製品の企画につながることがありますし、マーケティング情報が営業活動の改善に役立つケースもあります。このように、部門ごとの役割を明確にしながらも適切な連携を行うことで、職能別組織はより効果的に機能します。
職能別組織が企業にもたらすメリット
職能別組織が企業にもたらすメリットは、主に「専門性の向上」「業務品質の安定」「人材育成のしやすさ」「経営管理の分かりやすさ」といった点に整理できます。職能別組織とは、営業・開発・人事・経理など、仕事の種類(職能)ごとに部門を分ける組織構造のことを指します。同じ種類の仕事を行う人が1つの部門に集まるため、経験や知識が蓄積しやすく、結果として業務全体のレベルを引き上げやすい構造になっています。特に、事業の種類がまだ少ない企業や、専門スキルを軸に事業を伸ばしていきたい企業にとって、分かりやすく運用しやすい組織形態です。
専門性の向上と業務品質の安定
職能別組織の大きなメリットは、同じ職種のメンバーがまとまることで専門性を高めやすい点です。たとえば営業部門であれば、商談の進め方や提案資料の作り方、顧客との関係構築のコツなどを、部門内で共有しやすくなります。開発部門であれば、設計の考え方やレビューの基準、品質を保つためのチェックポイントなどを共通化しやすい環境ができます。このように、同じ領域に取り組むメンバー同士が日常的にコミュニケーションを取ることで、暗黙知(言葉にしづらい感覚的なノウハウ)も含めた知識が伝わりやすくなります。
さらに、仕事の手順や基準を部門単位でそろえやすいため、業務品質が安定しやすいことも特徴です。たとえば、見積書の作成ルールや、顧客への返信スピード、社内での報告フォーマットなどを部門内で統一できれば、誰が対応しても一定水準以上のサービスを提供しやすくなります。標準化されたやり方をベースに改善を重ねていくことで、組織全体の実力を底上げしやすくなる点は、職能別組織ならではのメリットです。
教育・育成のしやすさとノウハウの蓄積
職能別組織では、同じ種類の業務に携わるメンバーが集まっているため、新人教育やスキルアップの仕組みを整えやすくなります。新人が入社した際、「まずこの先輩について基本的な業務を学ぶ」「このマニュアルを使って一通りの流れを把握する」といった育成プロセスを部門単位で設計しやすくなります。教育する側も同じ職能の経験者であるため、現場に即した具体的なアドバイスをしやすく、教える内容にも一貫性を持たせやすい構造です。
また、部門ごとにノウハウを整理しやすいのも利点です。たとえば、よくあるトラブル事例とその対処法、成功した提案のパターン、作業を効率化する工夫などを部門内で共有すれば、その部門全体のレベルが徐々に底上げされていきます。こうした「ナレッジ(知識)の蓄積」は、属人化を防ぎ、誰かが異動・退職してもノウハウが失われにくい状態をつくるうえでも重要です。結果として、組織としての学習スピードを高めやすくなり、長期的な競争力の向上にもつながります。
経営管理のしやすさと責任範囲の明確化
職能別組織は、経営管理の観点から見ても扱いやすい構造です。営業に関することは営業部門、採用や評価に関することは人事部門、資金や経費に関することは経理部門、といったように、どのテーマをどの部門が担当するのかが分かりやすく整理されます。経営層から見ても、「この施策はどの部門と相談すべきか」「この数字の改善を誰にお願いするのか」といった判断がしやすく、意思決定の流れをシンプルに保ちやすくなります。
また、部門ごとに目標を設定しやすい点もメリットです。営業部門なら売上や受注件数、人事部門なら採用人数や定着率、経理部門なら予算遵守率や決算の正確性など、職能に応じた指標を定めることで、評価や改善の方向性も見えやすくなります。責任範囲が明確であることは、部門長やマネージャーにとっても、自身の役割を理解しやすく、メンバーに対しても具体的な指導やフィードバックを行いやすくする要素となります。
職能別組織で発生しやすい課題とリスク
職能別組織は、専門性を高めやすく業務の標準化もしやすい一方で、特有の課題やリスクも抱えやすい組織構造です。メリットだけを見ると理想的に感じられますが、実際の現場では「部門ごとの縦割り」「お客様視点の欠如」「意思決定の遅さ」などが問題となることがあります。これらは、職能ごとに人や情報が集まりやすいという構造上の特徴から自然に生まれやすいものであり、意識して対策を取らないと徐々に組織全体のパフォーマンスを下げてしまう要因になります。ここでは、職能別組織で起こりがちな代表的な課題と、その背景となる考え方について整理していきます。
サイロ化と部門間コミュニケーションの分断
職能別組織で最もよく挙げられる課題が「サイロ化」です。サイロ化とは、本来は農業で使われる穀物の貯蔵庫(サイロ)から来た言葉で、「部門ごとに閉じてしまい、他部門との交流や情報共有が少なくなる状態」を指します。営業、開発、マーケティング、人事など、職能ごとに部門が分かれていることで、部門内の結束は強まりやすい反面、「自分たちの仕事さえきちんとしていればよい」という意識が強くなりやすくなります。
その結果、次のような状況が起こりがちです。
- 営業が聞いてきた顧客の声が、開発やマーケティングに十分に伝わらない
- 開発側がつくりたい機能と、営業側がお客様に求められていると感じている内容がズレていく
- 人事が設計した評価制度が、実際の現場の働き方と噛み合わない
こうしたズレは、部門ごとのコミュニケーションが不足していることが原因であることが多く、「部門内では最適、全体としては不便」という状態を生みやすくなります。サイロ化が進むと、他部門の事情や制約を知らないまま自部門の都合だけで判断してしまい、結果として顧客体験が悪化したり、社内調整に余計な時間がかかったりするリスクが高まります。
全体最適よりも部分最適が優先されるリスク
職能別組織では、部門ごとに目標が設定されることが一般的です。営業は売上、開発は品質や納期、マーケティングは認知度やリード数、人事は採用人数や定着率など、それぞれの指標は合理的に見えます。しかし、部門ごとの目標が強く意識されすぎると、「自部門の数字を守ること」が目的化し、会社全体としての成果よりも「自分たちの成果」を優先してしまう傾向が生まれます。これを「部分最適」と呼びます。
例えば、次のような例が考えられます。
- 営業が短期的な売上を優先するあまり、開発の負荷を無視した無理な約束をしてしまう
- 開発が品質を重視するあまり、リリース時期が大きく遅れ、マーケティングや営業の計画に影響が出る
- 人事が採用目標人数を最優先し、現場とのすり合わせが足りない状態で採用を進めてしまう
このように、各部門が「自部門のKPI(重要指標)を達成すること」だけに集中してしまうと、全体としてのバランスが崩れ、かえって業績が伸び悩むことがあります。職能別組織では、この部分最適が起こりやすい構造であること自体が、ひとつのリスクといえます。
意思決定が遅くなりやすい構造的な要因
職能別組織は、指揮命令系統が分かりやすい反面、複数の部門にまたがるテーマでは意思決定が遅くなりやすい傾向があります。新しいサービスを立ち上げる、価格やプランを変更する、大きな組織改編を行うといった場面では、営業・開発・マーケティング・サポート・人事など、さまざまな部門が関わることになります。その際、各部門にとってのメリット・デメリットが異なるため、調整に時間がかかりやすくなります。
例えば、新しいサービス機能を追加したいときには、
- 開発部門:技術的な実現可能性や開発工数を検討する
- 営業部門:顧客への説明内容や販売体制を検討する
- サポート部門:問い合わせ対応やマニュアル整備を検討する
といった具合に、多くの部門とのすり合わせが必要になります。ここで、各部門が自部門の都合だけで意見を出し合うと、なかなか合意にたどりつけず、意思決定が先延ばしになってしまうリスクがあります。また、責任の所在が「全員参加」であいまいになり、決断する人がはっきりしない状態になりやすいことも課題のひとつです。
職能別組織と他の組織構造との違い
組織構造にはいくつかの種類があり、その中でも職能別組織は「職能(機能)ごとに人や役割をまとめる」という特徴を持っています。しかし、企業が成長したり事業が複雑化したりすると、職能別組織だけでは対応しにくくなる場面もあるため、ほかの組織構造と比較しながら違いを理解することが大切です。代表的な組織構造としては、事業部制組織、プロジェクト型組織、マトリックス組織などがあります。これらは職能別組織とは異なる視点で企業を整理し、事業のスピードや市場への対応力を高めるために用いられます。ここでは、各組織構造がどう違い、どのような場面で適しているのかを整理して解説します。
事業部制組織との違い
事業部制組織は、商品・サービス、顧客層、市場などの「事業単位」で会社を分ける組織形態です。職能別組織が「営業部門」「開発部門」など機能を基準にまとめるのに対して、事業部制では「A事業部」「B事業部」といった形で事業そのものを中心に編成します。
違いを整理すると次のようになります。
- 職能別組織:専門性が高まり、機能の標準化がしやすい
- 事業部制組織:事業ごとのスピード感が高まり、意思決定が早い
事業部制では、事業ごとに営業・開発・マーケティングなどの機能を全部まとめて小さな会社のように運営するため、顧客対応が迅速になり、市場の変化にも柔軟に対応しやすいという特徴があります。一方、職能別組織は専門部隊が高度な知識を持って業務を支えるため、品質を一定に保ちやすくなりますが、部門間の調整に時間がかかる場合があります。
プロジェクト型組織との違い
プロジェクト型組織は、特定の目標を達成するために、必要なスキルを持つメンバーを一時的に集めてチームを編成するやり方です。たとえば、新規サービス開発や新店舗の立ち上げなど、期限があり、目的が明確な取り組みでよく使われます。
違いを整理すると次のようになります。
- 職能別組織:普段の業務が「機能」で分けられる。役割が固定されやすい
- プロジェクト型組織:目的に合わせて柔軟にメンバーが入れ替わる
プロジェクト型はスピードと柔軟性が高く、専門性を組み合わせて成果を上げやすい反面、メンバーの所属感が弱まりやすいという課題があります。対して職能別組織は、同じ職能の仲間が集まるため、教育や育成がしやすいという利点があり、長期的なスキル蓄積には向いています。
マトリックス組織との違い
マトリックス組織は、「職能」と「事業」を二重の軸として組織を編成する仕組みです。社員は職能上の上司と、プロジェクトや事業の上司の二人に報告することになります。複雑ではありますが、大企業やグローバル企業など、多様な事業を同時に扱う場合に採用されることが多い組織形態です。
違いを整理すると次のようになります。
- 職能別組織:上司は1人で、専門領域にフォーカスできる
- マトリックス組織:上司が複数になり、事業と専門の両方で指示を受ける
マトリックス組織は市場の変化に柔軟に対応しやすく、職能の知識も事業の推進力も両立しやすい一方で、責任の所在が複雑になりやすいという課題があります。職能別組織はその点、指揮命令系統が明確でシンプルなため、導入しやすく安定しやすい構造といえます。
職能別組織を効果的に運用するためのポイント
職能別組織を効果的に運用するためには、「専門性を高める仕組み」と「部門間をつなぐ仕組み」の両方を意識して設計することが大切です。職能別組織は、営業や開発、人事、経理などの機能ごとに部門を分けるため、それぞれの専門性を伸ばしやすい一方で、放っておくと部門同士の距離が生まれやすい構造でもあります。そのため、ただ組織図を職能ごとに切るだけではなく、「情報共有のルール」「意思決定の流れ」「評価や目標設定の考え方」など、運用面の工夫が求められます。特に、現場のメンバーやマネージャーが日々どのように動きやすくなるかという視点を持って設計することが、実際に機能する組織づくりのポイントになります。
部門内の専門性を高める仕組みづくり
まず、職能別組織の強みである専門性を最大限に活かすためには、部門内での学習やナレッジ共有の仕組みが重要です。具体的には、次のような取り組みが挙げられます。
- 定期的な勉強会や事例共有会を行い、成功・失敗の事例を部門内で共有する
- 新人向けの育成プランやチェックリストを用意し、短期間で基本スキルを身につけられるようにする
- よくある質問やトラブル対応を整理した内部向けのマニュアルを整備する
このような仕組みを整えることで、個人の経験に依存しすぎず、部門としての実力を底上げしやすくなります。また、教育・育成を一部の人だけの役割にするのではなく、先輩社員がローテーションで教える機会を持つことで、教える側の理解も深まりやすくなります。専門性を「個人のスキル」ではなく「部門の資産」として管理する意識が重要です。
さらに、人事評価の観点でも、単に成果だけを見るのではなく、「専門性の磨き方」や「チームへの貢献度」も評価軸に含めることで、メンバーが安心してスキルアップに時間を使える環境をつくることができます。これにより、短期的な数字だけでなく、長期的な成長を支える文化が育ちやすくなります。
部門間連携を促す情報共有と目標設計
職能別組織をうまく運用するうえで特に重要なのが、部門間の連携をどう設計するかという点です。部門ごとに専門性が高まるほど、自部門の事情だけで物事を考えがちになるため、意識的に「全体での最適」を考える機会をつくる必要があります。
たとえば、次のような工夫が考えられます。
- 部門横断の定例ミーティングを設定し、進行中の案件や課題を共有する
- 新しい施策やサービスを検討する際は、初期段階から関連しそうな複数部門の代表に参加してもらう
- 部門ごとの目標だけでなく、「全社共通の指標」も設定し、全員で追いかける数字を用意する
特に目標設計は重要で、「営業は売上」「開発は品質」といった個別の目標だけではなく、「顧客満足度」や「継続利用率」など、部門をまたいだ共通のゴールを設定することで、部門同士が協力しやすくなります。こうした共通指標を掲げておくと、会議での議論も「自部門の都合」だけでなく「全体の成果」を起点に考えやすくなります。
また、情報共有のツールやフォーマットをそろえることも重要です。案件の状況や顧客からのフィードバックを記録する際に、部門ごとに形式がバラバラだと、読み手が理解しづらくなります。共通のテンプレートや記録ルールを用意することで、部門が違っても情報をスムーズに受け渡せる状態を目指します。
マネージャーの役割定義と裁量範囲の明確化
職能別組織では、部門ごとのマネージャーの役割が組織運営のカギを握ります。マネージャーは、単に部門の仕事を管理するだけでなく、「専門性の向上」と「他部門との橋渡し」の両方を担う存在になります。そのため、マネージャーに求める役割や裁量範囲をあいまいにせず、組織として明文化しておくことが大切です。
たとえば、次のような観点で役割を整理できます。
- 部門内のスキルマップ(誰が何を得意としているか)の把握と配置調整
- 部門内メンバーの評価・育成方針の決定
- 他部門との調整役としての参加範囲(どの会議に出るのか、どこまで決裁権を持つのか)
マネージャーが「自部門の守り役」だけになってしまうと、サイロ化を加速させる要因になることがあります。逆に、「自部門の専門性を代表しつつ、全体最適を一緒に考える存在」として位置づけることで、職能別組織全体のバランスが取りやすくなります。こうした役割定義が明確であればあるほど、メンバーも「どんな視点で相談すればよいか」が分かりやすくなり、日々のコミュニケーションもスムーズになります。
職能別組織が成長フェーズにもたらす影響
職能別組織は、企業の成長フェーズによってプラスにもマイナスにも働く特徴があります。創業期から成長初期にかけては、営業・開発・バックオフィスといった機能ごとに人材をまとめることで、役割分担が分かりやすくなり、社内の秩序を整えやすくなります。一方、事業やプロダクトの数が増え、組織規模が拡大していくと、職能別組織のままでは意思決定が遅くなる、顧客ニーズへの対応が鈍くなるなどの課題も現れやすくなります。つまり、職能別組織は「いつでも万能」な構造ではなく、「どの成長段階でどのように活かすか」を理解しておくことが重要です。特に、スタートアップや新規事業を扱う組織にとっては、自社が今どのフェーズにいるのかを意識しながら、職能別組織の強みと限界を認識することが求められます。
立ち上げ〜成長初期における職能別組織の効果
立ち上げから成長初期の段階では、まだ扱う事業やサービスの種類が少なく、組織のメンバー数もそれほど多くありません。このフェーズでは、職能別組織は非常に相性の良い構造です。理由として、まず「誰が何を担当するのか」をシンプルに整理しやすい点が挙げられます。営業は売上をつくる、開発はプロダクトをつくる、人事・総務は人と環境を支える、といったように、役割が明確であればあるほど、限られた人数でも効率よく仕事を進めやすくなります。
また、専門性を集中させることで、立ち上げ期に必要な「コア機能の強化」を行いやすくなります。たとえば、プロダクト主導の企業であれば、開発部門により多くのリソースを割き、技術力や品質を集中的に高めることができます。同様に、営業力で勝負したい企業であれば、営業部門に経験豊富な人材を集め、営業プロセスやトークスクリプトを洗練させていくことができます。職能別組織は、このように「強みとなる機能に資源を集中させる」設計をしやすい点が特徴です。
さらに、立ち上げ〜成長初期の段階では、経営者や経営メンバーが各部門と距離が近く、部門間の調整も比較的スムーズに行われます。そのため、職能別組織の弱点である「縦割りの弊害」がまだ表面化しにくく、メリットの方が強く出やすい段階ともいえます。
成長中〜多角化フェーズにおける限界と構造転換のきっかけ
組織が成長し、社員数が増え、扱う事業やプロダクトが複数になってくると、職能別組織には次第に限界が見え始めます。特に、多くの企業でよく見られるのが「顧客や事業ごとのコントロールが難しくなる」という現象です。職能別組織では、営業は全事業の営業、開発は全事業の開発という形になりやすく、どの事業にどれだけリソースを割くべきかが見えにくくなります。
たとえば、AサービスとBサービスを複数展開している企業で、営業部門が1つだけの場合、どちらのサービスにどれだけ注力するかという判断が難しくなります。現場レベルでは「売りやすいサービスばかり売る」「新サービスの推進が後回しになる」といった偏りも生まれやすくなります。同様に、開発部門も全サービスの機能追加や改善要望を一手に引き受けるため、優先順位の調整に時間がかかり、リリーススピードが低下するリスクがあります。
このような状況が続くと、企業は「事業単位で責任を持てる構造」に切り替える必要性を感じ始めます。そこで候補となるのが、事業部制組織やマトリックス組織です。特定の売上規模やサービス数を超えると、「職能別のままでは調整コストが高い」「事業責任が曖昧」という課題が目立ち始め、それが組織構造を見直すきっかけになります。つまり、成長フェーズが進むほど、職能別組織は「そのまま維持するべきか」「別の構造と組み合わせるべきか」という判断が必要になる組織形態といえます。
まとめ
職能別組織は、企業の業務を営業・開発・人事・経理といった「機能ごと」に整理し、それぞれの専門性を高めながら効率的に業務を進めるための組織構造です。同じ職能のメンバーが集まることでノウハウが共有されやすく、業務の標準化や品質の安定につなげやすい点が大きな特徴です。特に成長初期の企業においては、役割分担を明確にし、限られたリソースを重点領域に集中させる際に有効な仕組みとして、多くの組織で採用されています。一方で、職能ごとに縦に分かれた構造であることから、部門間のつながりが弱まりやすく、サイロ化や部分最適といった課題が生じることもあります。これらは職能別組織特有のリスクであり、意識的なマネジメントと仕組みづくりが求められる領域です。
他の組織構造との比較から見える活用のポイント
職能別組織は専門性の蓄積に強みを持つ一方、事業部制組織やプロジェクト型組織、マトリックス組織と比べると、市場の変化に対するスピード感がやや弱まることがあります。これは、意思決定に複数部門の調整が必要になりやすい構造のためです。そのため、企業が扱う事業の数が増えたり、スピードが求められるフェーズに入ったりすると、職能別組織だけでは対応しづらくなる場面が出てきます。他の組織構造と比較することで、自社がどのフェーズにあり、どのような運営が求められるのかを見極めることができます。組織構造に絶対的な正解はなく、事業の特性や組織の目指す方向性に合わせて、最適な形を選び取る姿勢が重要です。
成長に合わせた柔軟な組織設計の重要性
企業が成長すると、職能別組織のメリットである専門性の高さがそのまま限界にもつながることがあります。特に、多角化や事業拡大が進むと、職能横断の調整が増え、意思決定のスピードが落ちるといった問題が生じやすくなります。こうした状況では、事業ごとに責任を持つ事業部制組織へ移行したり、職能と事業の両軸を持つマトリックス型を検討したりする必要が出てきます。つまり、職能別組織は導入して終わりの仕組みではなく、企業の成長段階に応じて柔軟に見直し、最適化していく対象であるということです。組織は固定されたものではなく、企業の進化に合わせて形を変えることで、より強く、より持続的に成果を上げられる構造へと成長していきます。