SDGsとITの関係性を理解することは、これから社会で活躍していくうえでとても重要な視点になります。SDGsは「持続可能な開発目標」という意味で、世界中の国々が協力して、貧困や環境問題、教育格差などのさまざまな課題を解決していこうという共通の目標です。一方、ITは「情報技術」を指し、コンピューターやネットワーク、スマートフォン、クラウドサービスなど、人と情報をつなぐための技術全般のことをいいます。
SDGsとITの関係性を理解する基礎知識
これら2つは別々の話に見えますが、実際にはとても深く結びついており、ITを上手に活用することで、SDGsが目指す社会に近づきやすくなります。たとえば、「誰一人取り残さない」という考え方を実現するには、教育や医療、福祉のサービスをより多くの人に届ける仕組みが必要ですが、その際にITが大きな役割を果たします。オンラインで学べる仕組みや、遠隔地からでも医師に相談できる仕組みなどは、すべてITによって支えられているしくみです。
また、SDGsでは「環境」「経済」「社会」の3つのバランスが重視されていますが、ITはこの3つすべてに関わる横断的な道具でもあります。環境にやさしい暮らしを実現するためのエネルギー管理システムや、働き方を柔軟にするためのリモートワークの仕組み、社会課題を見える化するためのデータ分析など、多くの場面でITが活躍しています。これらを理解することで、ITは単に便利な道具というだけでなく、よりよい社会をつくるための「手段」であることが見えてきます。
SDGsとは何かを整理する
SDGsは、全部で17個の目標と、それをより具体的にした169のターゲットから構成されています。17個の目標には、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」など、人々の暮らしや地球環境に関するテーマが幅広く含まれています。
ここで大切なのは、SDGsは「特別な人だけが取り組むものではない」という点です。国や企業だけでなく、一般の市民や学生、一人ひとりが自分の立場でできることを考え、行動することが求められています。そのため、SDGsは「世界共通のチェックリスト」のような役割を持っており、自分の活動がどの目標につながっているのかを考える目安として使うことができます。
また、SDGsには「2030年までに達成を目指す」という期限があります。これは「いつかやればいい」というものではなく、今から取り組むべき具体的な目標であることを示しています。この期限があることで、各国の政府や企業、自治体などが計画を立て、進捗を確認しながら取り組みを進めやすくなっています。
ITとは何か、その特徴をSDGsの視点から見る
IT(情報技術)は、情報を「集める」「保存する」「処理する」「伝える」ための技術の総称です。身近なところでは、スマートフォンのアプリやSNS、オンライン会議、動画配信サービスなどもITの一部です。ITの大きな特徴は、距離や時間の制限を小さくできることです。離れた場所にいる人同士がリアルタイムで会話できたり、世界中の情報を短時間で調べられたりするのは、ITがあるからこそ可能になっています。
SDGsの観点から見ると、この「距離や時間の制限を小さくできる」という特徴は、とても重要な意味を持ちます。たとえば、遠く離れた地域でもオンラインで授業を受けられるようにすることで、教育の機会を広げることができます。また、災害が発生したときに、現地の状況を素早く共有し、必要な支援を的確に届けることにも役立ちます。
さらに、ITは大量のデータを扱うことが得意です。これにより、環境問題や人口動態(人口の変化の様子)などの複雑な情報を整理し、傾向を分析することができます。こうした分析結果は、政策を考えたり、新しいサービスを設計したりする際の重要な材料になります。
SDGsとITが結びつく具体的なイメージ
SDGsとITの関係性をより具体的にイメージするために、いくつかの例を挙げて整理します。たとえば、SDGsの目標のひとつである「質の高い教育をみんなに」では、オンライン学習の仕組みが大きな役割を果たします。オンライン上で教材を配信したり、双方向で質問や意見交換ができる仕組みを整えたりすることで、学校に通いにくい子どもや、大人になってから学び直しをしたい人にも学習の機会を届けることができます。
また、「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」という目標では、電気の使用量をリアルタイムで確認したり、無駄なエネルギー消費を自動的に抑えたりする仕組みにITが活用されています。家庭やオフィス、工場などのエネルギー使用状況を見える形にすることで、どこに改善の余地があるのかが分かりやすくなります。
さらに、「住み続けられるまちづくりを」という目標では、交通量や人の流れ、災害リスクなどの情報を集めて分析し、安全で暮らしやすい街の計画を立てるときにITが使われています。このように、ITはSDGsのさまざまな目標を支える「共通の道具」として機能しており、SDGsを学ぶ際にはITの基本的な役割も一緒に理解しておくことが大切です。
IT技術が支援する環境保全への取り組み
IT技術は、環境問題の解決を支える重要な手段として注目されています。環境保全とは、自然環境を守り、未来世代が健全に生活できる状態を維持することを指しますが、そのためには現状を正確に把握し、効率的な対策を講じる必要があります。ITは、この「把握」と「対策」の両方を強化する役割を果たします。特に、データの収集・分析が容易になったことで、従来では見えにくかった環境の変化を定量的につかむことができるようになりました。また、エネルギーの利用を最適化する仕組みや、自然資源の管理をサポートする仕組みなど、環境保全に直結する多様な取り組みが広がっています。これらを理解することで、ITが環境保全においてどのような価値を生み出しているのかをより具体的に把握できます。
エネルギー管理におけるITの活用
エネルギーの使い方を工夫することは、環境保全の基盤となる取り組みです。その際に役立つのが、ITによるエネルギー管理システムです。エネルギー管理システムとは、電気やガスなどの使用状況をデジタルで記録し、分析することで、無駄を減らすための仕組みを提供する技術です。これにより、家庭や企業では自分たちの使っているエネルギーをリアルタイムで把握できます。
たとえば、オフィスビルでは、照明や空調の稼働を自動で調整する仕組みが導入されています。これは、センサーが部屋の温度や明るさ、人の出入りを感知し、必要な時だけ機器を動かすという技術です。こうした最適化が行われることで、余分なエネルギーを消費することなく、快適な環境を保つことができます。
さらに、家庭向けのエネルギーモニターも普及しています。スマートメーターと呼ばれる装置を使うことで、家庭の電気使用量をグラフで確認できたり、エネルギー削減に向けたアドバイスを受けられたりします。このように、エネルギー管理におけるIT技術は、誰でも取り組める環境保全の方法を広げています。
自然環境の監視と保全を支えるIT
環境保全では、自然環境の変化を継続的に監視することが不可欠です。IT技術はこの監視を高度化し、より正確な判断を可能にします。たとえば、森林の状態を把握する際には、衛星画像が活用されています。衛星画像を処理する技術は、広大な土地の変化を短時間で確認でき、人が現地に足を運ぶのが難しい場所でも状況を把握することができます。
また、河川の水質を自動で監視するシステムもあります。これらは、水の成分をセンサーで測定し、異常が発生した際には即時に知らせる仕組みです。こうしたシステムがあることで、環境への影響を最小限に抑える行動が迅速に取れるようになります。
さらに、野生動物の保護にもITが役立っています。動物の動きを把握するためのGPS装置や、自動撮影カメラなどを利用することで、生態系の変化や生息地の状況を的確に把握できます。これらの技術は、動物の保護活動を支える重要な情報源となり、生物多様性の維持に貢献しています。
資源循環とITの連携による環境負荷の低減
資源を無駄なく使い、再利用やリサイクルを進めることは、SDGsの「つくる責任 つかう責任」の考え方につながります。ここでもITは重要な役割を果たします。たとえば、廃棄物の量を管理し、回収の必要性を予測するシステムがあります。これにより、効率的な回収が可能となり、焼却や輸送にかかる環境負荷を減らすことができます。
また、企業向けには、生産ラインで発生する廃材の種類や量を記録し、再利用の可能性を評価する仕組みも導入されています。この仕組みにより、資源の使い方を最適化し、廃棄物を減らす取り組みが加速しています。
さらに、消費者向けには、不要品の共有や交換を支援するプラットフォームも広がっています。これらは、まだ使えるものを必要な人に届けることで、物の寿命を延ばし、資源消費を抑える仕組みです。ITによって人と物がつながりやすくなり、廃棄物削減にもつながっています。
教育分野で広がるIT活用とSDGsへの貢献
教育分野におけるIT活用は、SDGsが掲げる「質の高い教育をみんなに」という目標を支える重要な手段になっています。従来の教育は、教室に集まれる人だけが学べる形が中心でしたが、ITの発達によって、場所や時間の制約を超えて学べる仕組みが増えています。これにより、地理的な条件や家庭の事情などで通学が難しい人にも、学びの機会が広がっています。さらに、ITは学習内容を一人ひとりのペースや理解度に合わせて提供しやすくするため、学びの質そのものを高める役割も果たします。教育とITが組み合わさることで、単に便利になるだけでなく、教育格差の是正や、誰も取り残さない学びの環境づくりに直接つながっています。
オンライン学習と学習機会の拡大
オンライン学習とは、インターネットを通じて授業や教材を提供する学びの形です。動画で授業を視聴したり、ウェブ上の資料を読んだり、チャットやビデオ通話を使って質問したりできる仕組みが含まれます。これにより、学校に通えない状況にある人でも、自宅や図書館などから学習を続けることができます。
オンライン学習の大きな特徴は、「学ぶ場所」と「学ぶ時間」を柔軟に選べることです。録画されたコンテンツであれば、理解しにくい部分を何度も見直すことができ、自分のペースで進められます。また、社会人が仕事の合間や休日に学び直しをする場合にも、オンライン学習は相性が良い仕組みです。
さらに、オンライン学習では、世界中の人と同じ内容を共有することも可能です。海外の事例や他地域の取り組みを学ぶことで、多様な価値観を知る機会が増えます。これはSDGsが重視する「多様性の尊重」にも通じるポイントであり、異なる背景を持つ人同士が理解を深めるきっかけになります。オンラインでの共同プロジェクトやグループワークを通じて、離れた場所の仲間と協力しながら課題解決に取り組む学びも実現しやすくなっています。
学習管理システムによる個別最適な学びの実現
学習管理システムとは、学習者の進み具合や理解度、提出物の状況などを一元的に管理するための仕組みです。学校やスクールで使われることが多く、学習者ごとのテスト結果や受講履歴を記録しておくことで、一人ひとりに合った学習計画を立てることができます。
学習管理システムを活用すると、教える側は「誰がどこでつまずいているのか」「どの単元に時間がかかっているのか」を確認しやすくなります。これにより、全員に同じ説明を繰り返すのではなく、必要な人に必要なサポートを届ける指導がしやすくなります。学習者にとっても、自分の理解度を客観的に把握できるため、得意分野と苦手分野を整理しながら学習を進めることができます。
こうした個別最適な学びは、学習意欲の向上にもつながります。「分からないまま置いていかれる」「簡単すぎて退屈になる」といった状況を減らすことができるからです。SDGsの観点では、「質の高い教育」とは単に知識を伝えるだけでなく、学習者一人ひとりに合った形で学びを届けることが重要とされており、学習管理システムはその実現に役立つITの一例といえます。
特別な配慮が必要な学習者を支えるITの役割
教育現場には、視覚や聴覚の特性、発達の特性、身体の状態などにより、特別な配慮が必要な学習者も多くいます。IT技術は、こうした学習者の学びを支える道具としても活用されています。たとえば、文字を読みづらい人に対しては、文章を音声で読み上げる機能が役立ちます。逆に、音声を文字に変換する機能は、音声情報を得ることが難しい人にとって有効です。
画面の拡大表示や色のコントラストを調整する機能も、視覚に特性がある人をサポートします。また、マウスやキーボードの操作が難しい人に向けては、タッチパネル操作や、特別な入力装置を使った操作方法が用意されることもあります。
さらに、学習のつまずきやすいポイントを細かく分解して提示したり、イラストや図解を多く用いるデジタル教材も増えています。これにより、文字情報だけでは理解しづらい内容でも、視覚的な情報を組み合わせることで、理解が深まりやすくなります。こうした取り組みは、SDGsの「誰一人取り残さない」という考え方に直結しており、ITを活用することで多様な学びのニーズに応える教育環境づくりが進められています。
福祉・医療を支えるIT技術と持続可能な社会
福祉・医療の分野では、IT技術が人々の健康と生活を支える基盤として重要な役割を果たしています。福祉とは、高齢者や障がいのある方、子どもや生活に困難を抱える人など、さまざまな立場の人が安心して暮らせるように支援する仕組み全般を指します。医療は、病気やけがの予防・診断・治療を行う仕組みです。これらはSDGsの「すべての人に健康と福祉を」という目標に直結しており、誰もが必要な支援を受けられる社会づくりの中心にある分野です。
しかし、現実には医師や看護師、介護職員の人手不足、過疎地域での医療機関不足、高齢化による医療費の増加など、多くの課題が存在します。こうした課題に対して、ITは「支える道具」として機能し、限られた人材や資源を有効に活用するための仕組みを提供します。たとえば、遠く離れた場所にいる人とやり取りできる通信技術や、情報を整理してすぐに取り出せるデジタル記録、身体の状態を継続的に見守るセンサーなどが活用されています。これらの技術は、医療や福祉サービスを必要とする人に、より途切れにくく、負担の少ない形で支援を届けるための基盤になります。
遠隔医療とオンライン相談の広がり
遠隔医療とは、医師と患者が同じ場所にいなくても、通信技術を使って診察や相談を行う仕組みのことです。ビデオ通話を利用して医師と対面に近い形で会話をしたり、事前に送った検査結果や症状の記録をもとにアドバイスを受けたりすることができます。これにより、近くに病院がない地域に住んでいる人や、移動が難しい高齢者・障がいのある方でも、専門的な意見を聞きやすくなります。
オンライン相談は、体調の悩みについて医療従事者に気軽に相談できる窓口としても活用されています。チャットや音声通話、ビデオ通話など、状況に応じた方法で利用できる場合が多く、軽い症状や不安の段階から相談できることが特徴です。これにより、症状が悪化する前に適切な行動を取れる可能性が高まります。
遠隔医療やオンライン相談は、医療機関にとっても、診察の優先度を整理したり、通院が必要な人と自宅で様子を見てもよい人を見極めたりする助けになります。これによって、医療資源を効率的に配分しやすくなり、多くの人に必要な支援が行き届く体制を整えることができます。
電子カルテと情報共有による医療の質向上
電子カルテとは、患者さんの診療記録を紙ではなくコンピューター上で管理する仕組みです。これには、診察内容、処方薬、検査結果、アレルギー情報などがまとめて記録されます。電子カルテの利点は、必要な情報に素早くアクセスできる点にあります。たとえば、別の診療科や他の医療機関にかかる場合でも、適切な情報共有が行われていれば、重複した検査を減らし、より正確で安全な診療が可能になります。
また、電子カルテを通じて、医師や看護師、薬剤師、リハビリスタッフなど、多職種の専門家が情報を共有しやすくなります。これにより、患者さん一人ひとりに対して、チームとして一貫した支援を行うことができます。情報がバラバラに管理されていると、説明の食い違いや連携の遅れが生じることがありますが、電子カルテはそうしたリスクを減らす助けになります。
さらに、電子カルテに蓄積されたデータを分析することで、病気の傾向や治療の効果を把握しやすくなります。どのような治療がどのくらい効果を上げているか、どの時期にどの病気が増えやすいかといった情報を整理することで、予防や早期発見に役立つ取り組みを考えることができます。これは、限られた医療資源を持続可能な形で活用するためにも重要な視点です。
福祉分野における見守り技術と生活支援
福祉の現場では、高齢者や一人暮らしの方を見守るためのIT技術が活用されています。見守り技術とは、センサーや通信機器を用いて、生活の様子や安全を確認する仕組みのことです。たとえば、家の中の動きを感知するセンサーを使うことで、一定時間動きがない場合に家族や支援者に通知が届くシステムがあります。これにより、急な体調不良や転倒などに早く気づける可能性が高まります。
また、家電製品と連携した見守りもあります。電気ポットや冷蔵庫、ドアの開閉状況などの使用履歴から、普段どおりの生活が行われているかを確認する仕組みです。大きな変化があった場合に知らせることで、さりげなく生活状況を把握する方法として利用されています。
生活支援の面では、買い物や移動を助けるオンラインサービスも福祉と結びついています。外出が難しい人でも、日用品や食料品を注文できる仕組みや、乗り物の予約をサポートする仕組みは、日常生活の自立を支える重要な道具になります。さらに、介護現場では、移乗(人をベッドから車いすに移す動作)や歩行の補助を行う機器、コミュニケーションを助ける機器なども登場しており、介護者の負担軽減と利用者の安全性向上に寄与しています。
こうした福祉・医療を支えるIT技術は、限られた人手や資源の中でも、一人ひとりに必要な支援を届けるための工夫として活用されており、持続可能な社会づくりにおいて重要な位置を占めています。
ITによる産業と働き方の変革がもたらすSDGsへの影響
ITによる産業と働き方の変革は、SDGsの多くの目標に直接・間接に関わっています。ITは、情報を早く正確に扱うことを得意とする技術であり、これによって仕事の進め方や企業のビジネスモデルそのものが大きく変化しています。たとえば、オンライン会議の普及により、同じ職場に集まらなくても仕事ができるようになったり、紙の書類をデジタルデータに置き換えることで、事務作業の効率が高まったりしています。
こうした変化は、単に便利になったというレベルにとどまらず、「働く場所や時間の柔軟性」「環境負荷の低減」「新しい雇用機会の創出」など、さまざまな側面でSDGsに関わっています。ITを活用した産業の変革は、「働きがいも経済成長も」「産業と技術革新の基盤をつくろう」「気候変動に具体的な対策を」といった目標と深く結びついており、働く人の暮らしと地球環境の両方に影響を与える重要な要素となっています。
リモートワークとワークライフバランスへの貢献
リモートワークとは、自宅やコワーキングスペースなど、会社以外の場所で仕事をする働き方のことです。オンライン会議システムやクラウド上でのファイル共有ツールなどのIT技術によって、物理的に同じ場所にいなくても、チームとして仕事を進めることができるようになりました。
この働き方の変化は、ワークライフバランスの改善に寄与します。通勤にかかる時間が減ることで、家族との時間や自分の学びに充てられる時間が増えたり、育児や介護と仕事を両立しやすくなったりします。特に、これまで家庭の事情でフルタイム勤務が難しかった人にとっては、働き方の選択肢が増えることにつながります。これは、SDGsが掲げる「ジェンダー平等」や「不平等をなくそう」という観点からも重要です。
また、通勤に使う交通手段が減ることで、移動によるエネルギー消費や排出ガスも減少します。これは環境負荷の軽減につながり、「気候変動に具体的な対策を」という目標への貢献ともいえます。ITによる働き方の変化は、個人の暮らしだけでなく、社会全体の環境負荷の見直しにも影響を与えているのです。
デジタル化による業務効率化と資源の有効活用
産業の現場では、ITを活用したデジタル化が進むことで、業務の効率化が実現されています。デジタル化とは、紙や口頭で行っていたやり取りを、デジタルデータとして扱えるようにすることを指します。たとえば、契約書や請求書をデジタル化することで、印刷・郵送にかかる手間やコストを減らすことができ、保管スペースも不要になります。
業務効率化の効果は、単に時間の節約だけではありません。ミスを減らし、確認作業をスムーズにすることで、社員がより価値の高い仕事に時間を使えるようになります。たとえば、新しいサービスの企画や、お客様とのコミュニケーションに時間を割くことができれば、企業の競争力向上にもつながります。
さらに、紙の使用量が減ることは、自然資源の保全にもつながります。印刷に使う紙やインク、郵送時の封筒や輸送エネルギーなどが減れば、その分、資源消費や環境負荷を抑えることができます。これは、「つくる責任 つかう責任」「陸の豊かさを守ろう」といった目標への間接的な貢献ともいえます。ITによるデジタル化は、「働きやすさ」と「環境への配慮」を同時に実現する手段として重要な位置を占めています。
新しい産業・職業の誕生と多様な働き方の創出
ITの発展は、新しい産業や職業を生み出す力も持っています。たとえば、オンライン上でサービスを提供するビジネスや、デジタルコンテンツを扱う仕事などは、ITがなければ存在しなかった分野です。また、ネットを通じて商品やサービスを提供する仕組みによって、小規模な事業者や個人でも、広い範囲のお客様にアプローチできるようになっています。
こうした変化により、大企業だけでなく、小さな企業や個人が活躍できる場が増えています。自分の得意分野や興味を活かして仕事を作り出す動きも広がっており、多様なキャリアの選び方が可能になっています。これは、「働きがいも経済成長も」の観点から、とても重要なポイントです。経済成長を目指しながら、一人ひとりが自分らしい働き方を選べる社会に近づくための基盤となります。
また、多様な働き方が生まれることで、育児や介護、病気などの事情を抱える人でも、自分のペースで働き続けやすくなります。フルタイムに限らず、短時間勤務やプロジェクト単位の仕事など、柔軟な働き方の選択肢が広がることで、労働市場から離れずに済む人が増えます。これにより、労働力不足の緩和や、社会全体の支え合いにもつながります。
ITによる産業と働き方の変革は、このように経済・社会・環境の三つの側面に同時に影響を与え、SDGsがめざす持続可能な社会に向けた重要な要素となっています。
データ活用が可能にする社会課題の「見える化」
社会課題を解決していくためには、「何が、どこで、どのくらい起きているのか」を正しく把握することが重要です。しかし、貧困、環境問題、少子高齢化、教育格差などの課題は、目に見えにくく、感覚だけでは実態をつかみにくいものが多いです。そこで役立つのが、データを整理・分析し、分かりやすい形にする「見える化」という考え方です。データとは、数値や文章、画像など、物事を記録した情報のことを指します。ITは、このデータを集めて、整理し、グラフや図として表示することで、多くの人が状況を理解しやすくする役割を果たします。
SDGsの取り組みにおいても、データの活用は欠かせません。例えば、「貧困をなくそう」「質の高い教育をみんなに」といった目標に対して、どの地域で支援が足りていないのか、どの取り組みが効果を上げているのかを判断するには、感想だけではなく、根拠となる数値や傾向が必要になります。データを用いた「見える化」は、感覚だけに頼らず、客観的な事実にもとづいて考えるための土台を提供します。これにより、限られた資源をより必要な場所に届けたり、効果の高い取り組みに集中したりすることが可能になります。
データの収集と整理がもたらす社会課題の理解
データ活用の第一歩は、「どのような情報を集めるか」を決めることです。例えば、子どもの学びに関する課題を考える場合、出席状況、テストの結果、家庭での学習時間、インターネット環境の有無など、さまざまな情報が関係します。これらをバラバラに見るのではなく、関連づけて整理することで、見えてくるものが変わってきます。
ITは、この情報の収集と整理を効率的に行う道具として役立ちます。アンケートを紙ではなくオンラインで実施すれば、多くの人から短時間で回答を集めることができますし、集めた回答を自動で集計することもできます。また、センサーや端末から自動的にデータを送信する仕組みを使えば、環境の変化や人の行動を継続的に記録することも可能です。
整理されたデータをもとに、「どの地域で学校の欠席率が高いのか」「どの時間帯に電力の使用量が急増するのか」などを把握できるようになります。この段階で重要なのは、単に数値を集めるだけでなく、「何を知りたいのか」「どんな行動につなげたいのか」という目的を意識してデータを扱うことです。目的がはっきりしているほど、データは社会課題の理解に役立つ情報として生きてきます。
視覚化による「見える化」で伝わり方が変わる
データを集めて整理した後は、それを人に伝える段階が重要になります。ここで力を発揮するのが、グラフや図、地図などを用いた「視覚化」です。視覚化とは、数値や文字情報を、パッと見て理解しやすい形に変えることを指します。棒グラフや折れ線グラフ、円グラフ、地図上に色分けをする表現などがその例です。
たとえば、ある地域の高齢化の状況を説明する際、文章で「A地区は高齢者が多く、B地区は少ない」と書くよりも、地図上に色の濃淡で示したほうが、違いが直感的に伝わります。また、時間とともに変化するデータを折れ線グラフにすれば、「最近急に増えているのか」「ゆっくりと減少しているのか」といった傾向が一目で分かるようになります。
ITを使うことで、こうした視覚化作業を自動化したり、リアルタイムで更新したりすることができます。たとえば、環境センサーから送られてくる情報をもとに、空気の状態を常に画面上に表示するしくみなどがあります。これにより、「今どのくらい安全なのか」「注意が必要なレベルなのか」といった判断を素早く行うことができます。視覚化された情報は、専門家だけでなく、一般の市民や学生にとっても理解しやすい形になるため、社会全体で課題を共有するための大きな助けとなります。
根拠にもとづく意思決定と参加型の社会づくり
データを活用した「見える化」は、政策や企業の方針を決める際にも重要な役割を果たします。これを「根拠にもとづく意思決定」と呼ぶことがあります。根拠にもとづく意思決定とは、感覚や経験だけでなく、実際に集めたデータや分析結果を参考にして判断を行う考え方です。
例えば、ある地域で公共交通をどのくらい運行するべきかを考える場合、人の移動データを分析することで、「どの時間帯に利用者が多いのか」「どのルートの需要が高いのか」が分かります。その結果をもとにダイヤを調整すれば、必要な人に必要なサービスを届けやすくなり、無駄な運行を減らすこともできます。これは、環境負荷の軽減や公共サービスの質の向上にもつながります。
さらに、「見える化」された情報を市民にも分かりやすく公開することで、一人ひとりが社会の状況を理解し、自分の意見を持つための材料になります。これにより、行政や企業だけでなく、市民も一緒になって課題を考え、話し合いに参加しやすくなります。意見交換の場で、データをもとに話すことで、「なんとなくそう思う」という感覚だけでなく、「この数字からこう考えられる」という具体的な対話が可能になります。
このように、データ活用と「見える化」は、SDGsがめざす「誰も取り残さない持続可能な社会」を実現するための大切な土台であり、ITはその実現を支える重要な技術として位置づけられています。
日常生活で実践できるSDGs×ITの取り入れ方
SDGsとITというと、少し難しく専門的なイメージを持たれることがありますが、実際には私たちの身の回りの行動に、すぐに取り入れられる要素が多くあります。特別なスキルや大きな投資が必要なわけではなく、スマートフォンやパソコンなど、すでに持っているデジタル機器の使い方を少し工夫するだけでも、環境負荷の軽減や社会課題の解決に間接的に貢献できます。
日常生活でのIT活用という視点からSDGsを考えると、「エネルギーの使い方」「モノやお金の使い方」「情報との付き合い方」という三つのテーマが見えてきます。これらはどれも、生活の質を保ちながら無理なく取り組めるポイントであり、一人ひとりが自分のペースで始めやすい行動につながります。ここでは、具体的な場面ごとに、ITを通じてSDGsに近づくための工夫を整理していきます。
身近なデジタル機器を環境配慮に活かす
まず意識しやすいのが、デジタル機器とエネルギーの関係です。IT機器は電力を必要としますが、その使い方を見直すことで、エネルギーの無駄を減らすことができます。たとえば、自宅の照明やエアコン、家電を操作できる「スマートリモコン」や、電気使用量を確認できる「家庭用モニター」のような仕組みを活用すると、自分の生活パターンとエネルギー消費の関係に気づきやすくなります。
また、紙を使う量を減らすことも、身近な環境配慮の一つです。領収書や明細書をデジタルで受け取る設定に変更したり、メモやスケジュール管理をデジタル上で行ったりすることで、紙の使用量を抑えることができます。これにより、森林資源の保全につながるだけでなく、保管スペースの節約や紛失リスクの軽減にもつながります。
デバイスの設定を工夫することも効果的です。画面の明るさを適切なレベルに調整したり、使わないときはスリープモードや電源オフの時間を短くしたりすることで、少しずつエネルギー消費を抑えることができます。こうした小さな工夫の積み重ねが、長期的な視点では大きなエネルギー削減につながる点が特徴です。
さらに、機器を買い替える際には、「長く使えるかどうか」や「不要になった機器を適切に回収してくれる仕組みがあるかどうか」といった点も意識できます。これにより、電子ごみの発生を抑え、限られた資源を大切に使うというSDGsの考え方に近づくことができます。
オンラインサービスを使ったフェアな消費行動
日常生活の中で、お金の使い方やモノの買い方もSDGsと深く関わっています。ITを活用すると、自分の消費行動がどのような社会や環境に影響しているのかを意識しながら選択しやすくなります。
オンラインショッピングを利用する際には、商品説明や企業の取り組みを確認しやすいという利点があります。たとえば、環境に配慮した素材を使っている商品や、公正な取引条件で生産された商品について説明しているページを読むことで、自分の購入がどのような価値観に基づいているのかを整理できます。こうした情報を踏まえて購入を選ぶことは、持続可能な生産や消費を支える行動の一つです。
また、フリマアプリやオンラインのリユースサービスを利用することで、まだ使えるモノを次の人につなげることができます。これにより、新品を購入する回数を減らし、資源の消費と廃棄物の発生を抑えることができます。不要になったモノをすぐに捨てるのではなく、必要とする人に届けるという発想は、「つくる責任 つかう責任」に対応した実践的な取り組みです。
サブスクリプション型のサービスも、SDGsの視点から考えられます。音楽や映像、書類作成ツールなどを「所有する」のではなく「利用する」形にすることで、物理的な媒体を大量に保管する必要がなくなり、資源の節約につながる側面があります。利用頻度や必要性を定期的に見直すことで、自分にとって本当に必要なサービスを選び取る姿勢も育てることができます。
情報との付き合い方からSDGsを意識する
ITは、情報を得る手段としても大きな役割を果たしています。ニュースや解説記事、解説動画などを通して、世界や地域の課題を知る機会が増えている一方で、情報の質や信頼性を見極める力も求められています。
SDGsの視点から見ると、「情報リテラシー」を身につけることはとても重要です。情報リテラシーとは、情報を探し、選び、理解し、自分なりに判断する力のことです。たとえば、ある社会課題についての情報に触れたとき、その情報源がどこなのか、他の情報と比べて内容に矛盾がないかなどを確認する習慣を持つことで、より信頼性の高い情報に基づいて行動できるようになります。
また、SNSなどで情報を発信する際には、「誰かを傷つけていないか」「偏った見方を広めていないか」といった点を意識することも、持続可能な社会づくりの一部です。相手の立場や背景を想像しながら言葉を選ぶことは、「平和と公正」の目標と関わる行動でもあります。
オンライン上で行われるキャンペーンや地域の取り組みを知り、少額の寄付やアンケートへの協力、応援メッセージの発信など、自分にできる範囲で参加することも可能です。ITを通じて社会課題への関心を高め、自分なりの関わり方を見つけることが、日常生活の中でSDGsを意識する具体的な一歩になります。
まとめ
SDGsとITの関係性を軸に、社会課題の理解から日常生活での実践まで、多面的な視点で整理してきました。SDGsは、世界が共通して取り組むべき17の目標を示した指標であり、持続可能な社会の実現に向けて、国や企業だけでなく、市民一人ひとりが関わるべき取り組みです。一方、ITは情報を扱うための技術であり、生活の質を高める便利な道具であると同時に、社会課題の解決を支える基盤としての役割も果たしています。SDGsとITを組み合わせて考えることで、技術がどのように人・社会・環境に貢献できるのかが見えやすくなります。
SDGsとITの連携がもたらす価値の整理
SDGsとITの連携には、複数の重要な価値があります。一つ目は、教育・医療・福祉などの分野において、必要なサービスをより多くの人へ届けられる環境づくりを支えることです。オンライン学習や遠隔医療など、場所や時間の制約を超えた仕組みは、教育格差や医療格差の緩和につながります。二つ目は、環境保全におけるデータ活用やエネルギー管理など、地球規模の課題に対して効率的なアプローチを可能にすることです。自然の変化を正しく把握し、無駄を減らすための行動につなげやすくなります。三つ目は、産業や働き方の変革を促進し、個人の選択肢と社会全体の持続可能性を両立する基盤を整える点です。リモートワークやデジタル化などの動きは、働きがいを高めながら環境負荷を減らす効果を生み出します。
日常生活におけるSDGs×ITの実践の広がり
SDGsとITは、実は日常生活でも自然と取り入れられる要素が多くあります。デジタル機器の設定を工夫したり、オンラインサービスを選ぶ際に環境や社会への影響を意識したりすることは、持続可能な行動の第一歩です。また、情報との適切な付き合い方を身につけることは、社会課題の理解を深めつつ、より公平で安心できるコミュニケーションを生み出すことにもつながります。これらの行動は小さな取り組みに見えますが、積み重なることで大きな変化を生むことが可能です。
技術と社会の未来を見つめる姿勢の重要性
SDGsとITの関係を理解することは、単に技術を学ぶだけではなく、「社会の中で技術をどう活かしていくか」を考える習慣につながります。技術が発展することで生まれる新しい可能性と、注意すべき点の両方を理解しながら、自分の立場でできることを探す姿勢が求められています。ITを使いこなす力は、仕事だけでなく、暮らしの質を高めたり、地域や世界の課題に貢献したりする力にも変わります。技術を扱うことそのものが、社会の一員としての責任や視野を広げることにつながる点は、今後ますます重要になると考えられます。
以上のように、SDGsとITを組み合わせた視点は、私たちの学びや働き方、暮らし方をより豊かで持続可能なものにするための鍵となります。